雪の結晶研究の道のりと自然の美
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第1図版
第2図版
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第4図版
第5図版
第6図版
第7図版
第8図版
第9図版
第10図版
第11図版
第12図版
序
この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の経過及びその結果をなるべく分りやすく書いたものである。勿論専門の学者の人に読んでもらうつもりは毛頭ないので、ただ自然の色々な現象について正当な理解を持ちたいと思っておられる人々に、少しでも自然現象に対する興味を喚起する機縁になれば有難いと思って書いたものである。雪といっても問題の範囲が広いので、その中で私が主として調べたのは、雪の結晶についてである。随って雪に関する色々な問題、例えば雪崩とか、スキーと雪との関係とかいう風な話はこの本の中には出て来ない。主な話はこの本の第三話、「北海道における雪の研究の話」及び第四話、「雪を作る話」の中に収められているのであるが、自然科学に対して別に関係のない読者のために第二話を挿入した。そういう人々のためにこの本を書いたので、雪は水蒸気が凍ったものであるというような分り切ったことまで説明したのである。
北海道における研究の外に、この数年来、私は新庄にある農林省の積雪地方農村経済調査所の仕事に少しばかり関係が出来て、其処で雪害の実状を見聞している中に、雪と人生との間の深い交渉に驚かされたのである。そして色々気の付いたことを第一話「雪と人生」の中に述べることにした。しかしこの方は結晶の話とちがって私の本当の専門ではないので、大抵は受売りの話である。
この本を書く前に実は、色々な雑誌や新聞に雪の話を時々書いたので、それらの記事の一部が重複してこの本の中へ出て来ていることがある点を御断りする。本当の所はこの本を作るに当って、小林勇氏が大変力瘤を入れてくれて、私の前の雪の記事の中から適当なものを取り出してくれたり、それから色々な雪の旧い文献とか新しい雪国生活の記録とかを持ち出してくれたりしたので、本書の一部は小林氏との共著といってよい位色々助力を惜しまれなかったのである。茲に銘記してその厚意に深く感謝する。また雪華の研究史については、加納一郎氏著『氷と雪』に拠るところが多かった。併せて感謝の意を表する次第である。
昭和十三年十二月一部改訂に際して
著者
第一 雪と人生
一
千七百七十年正月七日越後の国塩沢に生れた鈴木牧之が天保年間に著した『北越雪譜』は、雪に関する考察と雪国の生活とを書いた書物として有名であり、かつ日本ではこの種の文献が殆どない点で珍重されているものであるが、暖国の人には想像もつかぬ事柄が描かれている。
「左伝に平地尺に盈を大雪と為と見えたるは其国暖地なればなり。唐の韓愈が雪を豊年の嘉瑞といひしも暖国の論なり。されど唐土にも寒国は八月雪降事五雑俎に見えたり。暖国の雪一尺以下ならば山川村里立地に銀世界をなし、雪の飄々翩々たるを観て花に諭へ玉に比べ、勝望美景を愛し、酒食音律の楽を添へ、画に写し詞につらねて、称翫するは和漢古今の通例なれども、是雪の浅き国の楽みなり。我越後のごとく年毎に幾丈の雪を視ば何の楽き事かあらん。雪の為に力を尽し財を費し千辛万苦する事、下に説く所を視ておもひはかるべし。」
というようなことが首の方に書いてある。
雪の降らぬ地に生活している者に向って、雪の災害を説き知らせることは至難のことであろう。
我国においても漸く四、五年前から農林省に、「積雪地方農村経済調査所」という機関が山形県新庄に設けられ、其処の委嘱で優秀な学徒が集って真摯な研究が始められた。私も雪に関する研究をしている関係上、この「調査所」を度々訪れ、いつも雪に苦しめられる人々の生活を見て、その災害の恐るべき姿を見るので、まずこの「調査所」を機縁として知ったことをここに述べて見たい。しかる後に、この書の中心をなすところの雪の物理学的研究の方へ進むこととする。
二
雪の人間に与える損害は色々数えることが出来よう。そのうち計算にのらぬものは今此処には挙げないとして、物質的な損害のみを数えるに止めるがそれも容易な量ではない。
我国の一年間の雪の損害は、鉄道の損害を除いてもなお大雪の年には一億二、三千万円に上っており、比較的雪の少い年でもなお六、七千万円の巨額に達している。これは雪から蒙る直接の損害であって、不利益的損害を除いた数字なのである。不利益的損害というのは数字によって現すことの出来ないもののことであって、例えば東北地方の幼児の死亡率が、世界一の未開民族として知られているタスマニヤ島の蛮族に較べて、殆ど同程度であるというようなことである。この原因を追及したならば、「雪のために」蒙っている影響が、意外に主要な役割を占めているというような結果が出て来るのではなかろうかと思われる。
我国で大雪に苦しめられるのは、誰でも知っているように裏日本であって、新潟、富山、石川、山形、長野などを初めとして、北海道、青森、秋田、岩手などに及んでいる。このように何故裏日本に雪が多く降るかということは、今日もはや人々の常識となっているところであるが、一口にこれを説明すれば、冬期北半球では西北の風が吹く。特にこの傾向は上層では強いのであって、随って、シベリヤから冷い風が日本へ向って吹いて来るのである。シベリヤと日本との間には、日本海があるので、この風はそこの水蒸気を運び、それが日本の中央を縦走する山脈にあたって、そのうちの水蒸気を雪にして落してゆくのである。
この時期は大体一月から二月にかけてであって、換言すると、冬期の季節風の最も旺盛な時期に、裏日本に大雪が降るのである。雪が降り出し、地上に根雪を見るのは、北海道では十一月末に始まり、奥羽地方では十二月末からであるが、大雪は一月頃にならぬと降らない。積雪量の最も多い地域は新潟と富山の両県で、石川県の山間部、山形県の山寄りの土地などがこれに亜ぐのである。更に局部的に言えば、新潟県では、高田、関山、田口、小千谷辺に、富山県では蘆峅寺、黒部峡谷等である。これらの場所の積雪は一丈乃至三丈にも及ぶものがあるから、暖地の者には想像も及ばぬ凄じいものであるといわねばならない。
ここまでで全体の約3%。残り約148分は、名著伴読で続きから読めます。分からない箇所は、その場で著者に聞けます。
出典: 青空文庫(中谷宇吉郎『雪』)。本文は著作権の保護期間が満了した公開テキストです。
名著伴読は長い作品を一度に読み切れる長さへ区切っています。下の内訳はその区切りです。
| 節 | 見出し | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 雪(1/12) | 約18分 |
| 2 | 第一 雪と人生 八 | 約15分 |
| 3 | 第一 雪と人生 四 | 約19分 |
| 4 | 第一 雪と人生 一一 | 約14分 |
| 5 | 第三 北海道における雪の研究の話 一 | 約5分 |
| 6 | 第三 北海道における雪の研究の話 二 | 約5分 |
| 7 | 第三 北海道における雪の研究の話 三 | 約23分 |
| 8 | 第三 北海道における雪の研究の話 四 | 約7分 |
| 9 | 第三 北海道における雪の研究の話 七 | 約18分 |
| 10 | 第四 雪を作る話 六 | 約5分 |
| 11 | 第四 雪を作る話 七 | 約17分 |
| 12 | 第四 雪を作る話 一三 | 約10分 |
この問いに、中谷宇吉郎はこう書いています。下はすべて原文からの逐語引用です。
この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の経過及びその結果をなるべく分りやすく書いたものである。
主な話はこの本の第三話、「北海道における雪の研究の話」及び第四話、「雪を作る話」の中に収められているのである
其処で雪害の実状を見聞している中に、雪と人生との間の深い交渉に驚かされたのである。そして色々気の付いたことを第一話「雪と人生」の中に述べることにした。
名著伴読では、こうした箇所を中谷宇吉郎の一人称でつなぎ、必ず原文の引用を添えて答えます。引用は原文と一字一句照合したものだけを出し、触れると原文のその箇所へ移動します。AI による再現であり、本人の発言ではありません。
名著伴読は青空文庫および各著者の関係団体とは無関係の非公式アプリです。